تسجيل الدخول(何か……あたたかい……熱い……なんか、痛みが……小さくなっていく――)
口付けているさなか、体内にも変化が現れ始めたのを感じる。ふつふつと泉が湧き上がるように、体のくから何かが息づいていくのを感じるのだ。そうしてそれにつられるかのように、血の気がなく力が入らなかった体、四肢にゆっくりと血が巡り始めるのを感じた。
ゆっくりと、確かめるように指先を動かし、そっと魔王の腕に触れてみる。すると答えるように魔王がさらに抱き寄せてきて、距離が縮まり、一層密着していく。そうして触れ合う肌が心地よく、エリオットはゆったりと身をゆだねるように口付けを受け止め続けていた。
体に力がみなぎっていくのがわかる。これは、回復の魔術を施されているのだ――エリオットはそう気づいたのだが、もはや拒むことはできなかった。
(魔王様、なぜ――)
このままではヴェルクレイン国が滅んでしまうかもしれない。自分なんかを救ったせいで、母国が、みんなが死に絶えてし
(何か……あたたかい……熱い……なんか、痛みが……小さくなっていく――) 口付けているさなか、体内にも変化が現れ始めたのを感じる。ふつふつと泉が湧き上がるように、体のくから何かが息づいていくのを感じるのだ。そうしてそれにつられるかのように、血の気がなく力が入らなかった体、四肢にゆっくりと血が巡り始めるのを感じた。 ゆっくりと、確かめるように指先を動かし、そっと魔王の腕に触れてみる。すると答えるように魔王がさらに抱き寄せてきて、距離が縮まり、一層密着していく。そうして触れ合う肌が心地よく、エリオットはゆったりと身をゆだねるように口付けを受け止め続けていた。 体に力がみなぎっていくのがわかる。これは、回復の魔術を施されているのだ――エリオットはそう気づいたのだが、もはや拒むことはできなかった。(魔王様、なぜ――) このままではヴェルクレイン国が滅んでしまうかもしれない。自分なんかを救ったせいで、母国が、みんなが死に絶えてしまうかもしれない。 そして何より、魔王がまた魔力を失ってしまうのかと思うと、エリオットは言葉にならない申し訳なさで胸が潰れそうな想いがしていた。「……ッは……ッはぁ、あ……ッはぁ、ッはぁ……」 呼吸も忘れるほどの長い口付けを、どれほどしていたのだろう。気が付けばエリオットの体は痛みが消え、出血も止まり、目も開いて視界も明瞭になっていた。(……生きてる。体が、温かい……) 鮮明になった意識と視界に映し出されたのは心なしか青ざめた顔色の魔王で、エリオットは魔王が魔力を使い果たしたのかと|愕然《がくぜん》とした思いを抱いた。 すると魔王は、エリオットを見るなり「何だその情けない顔は」と苦笑したのだ。「だって、魔王様……魔力を……魔力をすべて、私に……ああ、そんな……なんてことに……!」「そう慌てるな。お前が思っているような事態に
城へは竜化した魔王のお陰で瞬く間に帰り着くことができたが、その間もエリオットの容体は刻一刻と悪化していく。痛みによる熱にうなされ、いまはもはや会話すらままならない。 塔の上のエリオットの寝室の寝台に寝かされ、魔王による回復の魔術が行われるのを待つしかない。「……思っているよりも傷が深いな……体の中の骨があちこち折れておるようだ」 エリオットの体に手をかざしながら傷の具合を確かめていたらしい魔王が苦々しく呟く。どうやら想像以上の重傷を負っているようで、魔王が困り果てているのが伝わってくる。「へい、き……です……ッあ、ッく……こう見えて、私、痛みに、強い、ですから……」「ああ、喋るんじゃない。傷に響く。案ずるな、きっと治してやる」 そう魔王は微笑みかけてはくれるものの、深刻な事態に変わりはないらしく、すぐさま表情が曇ってしまう。それが一層エリオットには気がかりだった。 窺うように目を向けていると、魔王がそっとエリオットの汗ばむ額を撫でてくれる。優しい手つきに目を閉じて受け止めていると、魔王は言葉を選ぶようにして口を開く。「エリオット……俺は、お前をどうしても助けてやりたい。お前は俺に愛とは何かを教えてくれた。いまやお前の存在は俺にとってなくてはならぬものだ。お前がいない日々など、到底考えられぬ」「魔王様……」 出会った頃はあんなに拒まれ、存在を否定せんばかりの態度だったのに。なくてはならないとまで言われ、エリオットの目に喜びの涙があふれてくる。モルは魔王からの愛など与えられるわけがないと言っていたが、それが違うことを感じさせる。 頬を伝い流れていくエリオットの涙を指先で拭いながら、魔王は顔を撫でてくれる。「いまから最大級の回復の魔術を施してやろう。瀕死の生き物でさえ快癒させる術だ、きっと助かる」 そう言いながら魔王がエリオットの痛みを覚え
瞬きをする間もなく連れてこられたのは、ガラスのように磨き上げられた氷でできた洞窟の中の部屋。どうやら北限にあるモルの住処に運ばれたらしく、そこは恐ろしく凍えるほど空気が冷たい。 吐く息さえ凍るほどの寒さのなか、エリオットは痛む体を支えながら氷でできた堅牢な檻の中に閉じ込められていた。「ッう……あ……体が、痛い……」 壁にたたきつけられた際、うちどころか悪かったのか、ひどく全身が痛む。恐らくどこか骨が折れているか、見えないところに大きな傷を負っているのかもしれない。確かめようにも痛みと寒さで体が思うように動かず、エリオットはただじっと痛みを覚える箇所をさするしかできない。 北限の地に連れてこられたことは、この凍えるような部屋の寒さで気付くことができた。しかしここが魔王の城からどれほど離れているかはわからない。何より、どう魔王にさらわれたことを知らせればいいのか、魔力がまったくないエリオットには何の手立てもなかった。「考えろ……何か手はあるはず……絶対、魔王様のところに帰るんだ……」 痛みと寒さ、そして不安で頭がどうかなってしまいそうな不安と恐怖を覚えるも、それでも正気を保っていられるのは魔王を想う心があってこそだ。「魔王様……逢いたい……」 祈るようにうずくまり、名前を唱える。届くともわからない祈りの声は、冷たい床に落ちて転がる。かすかに右の小指が熱を持っているが、それが何になるかもわからない。 強い拒絶を超えて心を開き、少しずつ気持ちを築き上げてきた魔王との関係は、きっと味方になってくれるに違いない。エリオットはそう信じ、ここから脱出する手立てを考えらながらも必死に自分を奮い立たせていた。「さてそろそろ観念する気になったかな、エリオット」「モル……」「どんなにお前があいつに想いを馳せようとも、所詮無力な人間の祈り。届くわけがない。無駄な足掻
「ああ、いよいよなんだな……」 生贄嫁としての役割を全うする時がそこまで迫っている。その日を迎えるまでに積み重ねてきた日々は、長くも短い、目まぐるしいものだった。 悔し涙にくれたこともあるし、自分の至らなさに忸怩たる思いを抱いたこともある。だがそれも、魔王と共に過ごし触合っていく内に、新たな信頼と感情を芽生えさせる種となっていった。 それがいま芽吹こうとしているのかもしれない――エリオットはその喜びにひとり頬を緩めて微笑む。 儀式にはただいな犠牲が伴うと言っていたモルの言葉が全く怖くないわけではない。それが嘘かどうかもわからない。だからこそ、こうしている間にも頭の片隅では「本当にそれでいいのか?」と、問うような自分の声がする気もする。「でも魔王様ならきっと、大丈夫」 先程の言葉にしても、眼差しにしても、とても儀式である性交のあとに相手を殺すような残忍さは窺えなかった。魔王はかつて想像していたような恐ろしい存在でないことは、エリオットが誰よりも知っている。 きっと大丈夫だ……そう、もう一度言い聞かせるように呟いた時、「随分と嬉しそうだね、エリオット」と、声が聞こえた。 聞き覚えのある声にハッと顔をあげると――いつの間にか先程まで魔王が座っていたソファーにモルが脚を組んで座っていたのだ。「モル様! いつの間に……」 今日は来客の予定は入っていなかったはずなのに、とエリオットが思い返していると、それを見透かすかのようにモルが柔和に――しかし目は全く笑っていない顔で――微笑む。「あいつにオレの来訪を知られれば厄介だからね。きっとまた出て行けだの何のと言われるからな」「では今日はどういったご用件で……」「決まっているだろう。君を連れ出しに来たのさ。あの恐ろしい残酷な魔王からね」 そう囁くように言いながら、モルはエリオットにゆっくりと近づいてくる。
上空で見る限り、ヴェルクレイン国の様子は前回目にした時とそう大きく変わっているように見えなかった。 見たところ内乱が起きているわけでも、他国に侵攻されているわけではないようではあったが、空から見て国の人々が飢えていないかどうかまではわからない。(やはり儀式は早めに行うようにした方がいいんだろうな。でも、どうやって切り出そう……) モルの言葉がまったく気になっていないかと言えば嘘になるが、先日魔王との間に信頼関係を再認識したエリオットにとって、それは頭を悩ませるほどの大きなものではなくなっていた。早ければ今日か明日か、近々魔王に儀式について提案しようとは考えられるほどに気持ちは落ち着いている。「エリオット、国の様子をどう思った?」 魔王と共にヴェルクレイン国の様子を見に行ってから数日後の午後、ダイニングでお茶を飲みながら魔王が尋ねてくる。午前中いっぱいかけて用意した焼き菓子が気に入ったのか、随分と機嫌がいい様子だ。 この様子なら、儀式のことを切り出しても頭ごなしに拒まれることはないかもしれない。そうエリオットは踏んだ。「はい、上空から見た感じでは私がいた頃と大きく変わらない気がしました。ただそれが、国の情勢がいいことを示しているとは限りません。それに……」 そう答えながらエリオットが胸ポケット方取り出したのは、先月母国から寄越された窮状を訴える手紙だ。ただ儀式を行いましょうというよりも、国の現状から必要性を訴える方が断られにくいのではないかと思ったからだ。「国から、まだ情勢が安定しなくて困窮しているという旨の手紙が届きまして……魔王様がよろしければ、その……近々儀式を行ってもらえればと思い……」「ふむ……」
「エリオット、いまいいか?」 魔王の背に乗ってヴェルクレイン国の様子を見に行った夜遅く、魔王が珍しくエリオットの部屋を訪ねてきた。もうそろそろ明かりを消して休もうとしていたエリオットは、魔王の珍しい来訪に目を丸くする。「ええ、大丈夫ですが……いかがされましたか?」 寝台に腰かけて書斎から持ち出した本を読んでいたエリオットは、それを枕元の台に置き、魔王に向き直る。 魔王もまたエリオットの隣に腰を下ろし、なにやら少し神妙な面持ちをしている。「お前、先程モルと何を話しておったのだ? 企みはないことはわかっておるが、何か良からぬことを吹き込まれてはおらぬか? お前のことだ、何か口の上手いあいつに騙されてはおらぬか?」 先程はモルの手前気丈に振る舞っていたのか、本心を言えば魔王とは言え不安がないわけではないのだろう。 しかしそれを正直に口にできるのであれば、いまこんな神妙な顔をしてエリオットを夜更けに尋ねてくることなどないだろう。出かけた帰りでも夕食時でもなく、いまになってそんなことを尋ねてくる辺り、いかに魔王が先程の件を気にかけて悩んでいたかが窺える。 エリオットとしては、先程のモルとの話は企みがないと答えた時点でまっさらになっているつもりだ。やましいことなどなく、魔王だけを信じているのだから。 とは言え、全く何もないといったところで魔王が信じてくれるとは思えない。そうであれば、いまの時分になって尋ねてくることなどないだろう。 だからエリオットは小さく苦笑し、「騙されてなどおりませんよ」と答える。「ただ少し、魔王様は愛想がないから大変だろうとだけは仰っていました。贈り物もしたことがないのか、って」 先程の会話とは多少違うが、モルから言われたことには間違いがない。愛想がないという話であれば毎度されている話題でもある。 その件に関しては魔王も否定できないのか、渋い顔をして「あ